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TW4、サイキックハーツの杜羽子・殊(d03083)のキャラブログ。仮プレだったりSSだったり。SSは少し暗め。分からない人はカムバック推奨。コメントはお気軽にどうぞ。 世界を捨てた少女は、何の夢を見るか? パス付きは殊が書きなぐったもの。数字4文字。どうしても気になる人はお手紙でどうぞ。
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依頼【欠陥品救済セミナー】の依頼を受けて。

*殊の闇堕ち人格も登場します。あと鬱々としてます。キャラのイメージが崩れてしまったら申し訳ありません。



『出来損ないですって! 出来損ない! 欠陥品に言われたらお終いだと思わない!?』
「……煩い」
 分量通り量った砂糖を振るいながら、頭の中できゃらきゃらと笑う騒々しい声にボクはため息をついた。
『だって傑作じゃない。出来損ないなんて』
例の依頼から帰ってきてから、「私」は随分とご機嫌だった。普段は夢の中にしか出てこない癖に、近頃は夜昼問わずやたらと話しかけてくる。「私」との会話はボクにとって疲労以外何物でも無いが、無視しきれる程彼女は大人しくはなかった。
『だって出来損ない、だもの。笑いが止まらないわ』
  再び響く笑い声にをボクは無視してふるいを終え、柔らかくしたバターと一緒にボウルへと入れる。ゴムベラでよくかき混ぜて、さらにそこへ卵を二つ。
『前の不良品の時もそうだったけど、今回の貴女も実に無様だったわね。思い出すだけで笑いが止まらないわ』
「どうせお前はいつも笑っているだろう。今更だよ」
  よく混ざったのを確認してから、そこへ更にふるった小麦粉を。白く軽い粉はゆっくりと入れても舞い上がり、視界に白いフィルターがかかったようだった。
『だって貴女、無様で惨めで楽しいんだもの。ところでーーさっきから思っていたのだけど、砂糖と塩を間違えて入れているわよ。それ』
  言われてはっとした。慌てて準備していた調味料のラベルをみ 見れば、「私」が言うとおりの名を記したラベル。試しに混ぜていた生地を手に掬い、舐めてみると酷い味がした。
『馬鹿ねぇ。ぼーっとしているから』
「……そういう事は早く言ってよ」
『だって貴女、私が何を言っても煩いとしか言わないじゃない』
  くすくすと、やはり彼女は愉快そうに笑う。ここまで大きなミスではもうごまかしは出来ないだろう。ボクは大人しく目の前の作業を諦め、ボウルごとシンクへと投げ出した。片付けは後回しにするとして、今はそのままベッドへと倒れこむ。
  ……あれ以来、どうも調子が狂っている。やたらめったら話しかけてくる「私」に疲弊しているのが直接の原因だろうが、それでもまだ、どこかに違和感があった。
  まるで、分厚いフィルターを通して世界を見ているような、遠い感覚。
『ところで貴女、気付いてる?』
  ふと彼女が笑うのをやめ、問いかけてくる。
『どうして私がこうやって、夢の中以外でも貴女と話せるかを』
「ただの「私」の気まぐれだろう」
『いいえ、いいえ。そんな気分の問題じゃないわ。もっと簡単で、シンプルな問題よ。だって少し前までは、私はこんなこと出来なかったもの』
  ボクは首を傾げた。正直、これといった心当たりはないし、彼女の力が強くなったという自覚もない。それこそ、きっかけと言ったらあの依頼くらいだが、幸か不幸か、ボクは殆ど戦うことすら出来なかった。影響があるとも思えない。
『やっぱり気付いてないのね。可哀想な子』
  くすり、と再び「私」は笑う。しかし今度の笑いは、嘲るというより哀れむような含みがあった。
『ねぇ、「ボク」。貴女は今、揺れているのよ。どうしようもなく、どう戻しようもなく、こちら側に』
  どきりと、した。
『笑っちゃうわよねぇ。出来損ないなんて。欠陥品も見誤りもいいところだわ』
「そう、そうだね……」
  逃げる直前のあの言葉が、ずっと引っかかっていた。
『出来損ないなら、まるで損なった部分を補えば完全みたい』
「不良品も、欠陥品も。補えば完成品になれる」
『けれど私は違う』
「どんなに望んだって、完成できるわけがない」
「『だって始めから、完成できるわけがないと決まっているから』」
  本音を言えば、ずっと分からなかった。親の愛を求めて、たとえ歪んでいてもそれを求める子供達。親の期待に答えようと足掻いて、無力の前に潰れ、刃を向ける大人達。なぜあの人達はそこまでに、親というものに執着するのだろう。親なんて所詮、遺伝子的な血の繋がりしかないものであるのに。
  ボクは自分の親というものを知らない。覚えている一番最初の記憶は、汚れた街の片隅にいて、隣には冷たくなった老人がいる光景からだ。だから親なんてきっとそんなものなのだろうと思っている。
 ボクには親の愛が分からない。親の期待も分からない。知らないのだから、当たり前だ。だから完成なんてするはずない。
『不良品、欠陥品とくるなら……貴女は一体何かしら?  私、気になっちゃうわ』
「知らないよ。ボクは気にならない」
  ベッドから体を起こし、ボクは投げやりに答えた。やっぱり一人は良くない。一人で延々と考えていると、良くないものばかりが頭に忍び込んでくる。またいつも通り、クラブに顔を出すことにしよう。
『それともう一つ聞いてもいいかしら?』  
  再び「私」が問いかける。どうせ黙らせることが出来ないので、ボクは黙っていた。
『敵を倒せなった「ボク」は、本当に「ボク」であれるの?』
  上着を手にとった手が止まった。
『貴女は戦いを選んだ。貴女であるために。けれど貴女は倒しそこねた』
「うるさい……」
  ばくばくと心臓が不自然な程大きく聞こえる。息を吸おうとしても、どこかで空回って肺まで届かなかった。
『それでも貴女は図々しく、「ボク」でいるの?  親も知らず、愛を捨て、世界を捨て、「ボク」であることを選ぶの?』
「黙れ……」
 目を閉じ、耳を塞ぐ。しかし声は止まず、きゃらきゃらとあの耳触りな笑い声が頭に響いた。
『可哀想な子。私以上に壊れた、哀れな子。いっそ壊れきって、何も感じなくなれば楽でしょうに』
「黙れ!」
  真っ白になった頭では、その言葉だけ吐き出すのが精一杯だった。彼女は言いたいことだけ言って満足したのか、くすくすと笑い声をあげるだけだ。今のうちに、とコートを羽織り、ドアを開けた。
  ふるりと震えて、自分の身体を抱きしめる。寒い、柔らかな日差しが差す日向にいる筈なのに、真夜中のように寒かった。
「わたしは……」
  言いかけて、息を呑む。身体の中に溜まった淀んだ何かを吐き出すように、思い切り壁を殴った。鈍い音と、ひび割れ、壊れる音。殴った壁は抉れ、酷い有様になったが、混乱は多少解けた気がした。
  ふと思い出して、首へと手を伸ばす。いつもつけている首の飾り。お守りだと言われた赤い宝石に触ると、少しだけ指先が暖まるように感じた。
  振り返れば、ベッドの横にあるぬいぐるみに目が行く。机の上には、鮮やかな髪飾り。
  大丈夫。まだ、大丈夫。
「ボクが、ボクでいるために……」
  ゆっくりと外へ一歩踏み出した。寒さはまだ残る、違和感は消えない。
  けれど、身体は自然と動いてくれた。たとえ重かったとしても、無理にでも走りだせばいい。走って、思考をクリアにして。そうすれば彼女は黙ってくれる。
  結局ボクはそうやっていくしか無いのだ。ボクとして生きる以上、立ち止まってはならない。止まれば、「私」に追いつかれる。
「だから……次は、ない」
  欠陥品だというあの女へと心の中へ刃を立て、ボクは顔をあげて走り出した。次はない。次に会ったら、必ず逃がさないと心に決めて。
全ての理由はただ一つ。
「ボクがボクであるために」

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プロフィール
HN:
杜羽子・殊
性別:
非公開
自己紹介:
ダンピール×魔法使い。10歳。
幼い容姿とは裏腹に、大人びた少女。基本好奇心旺盛、時により年相応に無邪気。が、過去は結構デンジャラスだったりする。
自分の唯一の世界だった人を捨て、武蔵坂学園へと来る。
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